歯の移植とは
歯を失った場合の選択肢は大きく3つあります。
- ❶ブリッジ(両隣の歯を被せ物でつなぐ)
- ❷入れ歯(取り外し式)
- ❸インプラント(外科的に人工の歯根を埋め込む)
のいずれかとなりますが、健康な親知らずが口腔内にある方は、第4の選択肢として自家歯牙移植という方法があります。全ての症例で応用することは難しいですが、当院ではCTなどで精査した後に適応であれば患者様に治療法の選択肢の一つとしてご提案させていただきます。親知らずを使用した移植は保険適応の術式です。
(勿論、親知らず以外の歯牙でも保険は効きませんが行えます)
自家歯牙移植について
1.初診時
6番目の歯がむし歯で保存できませんが健康な親知らずが後ろに控えています。
2.受容側の抜歯術
まず、残せない歯を抜歯します。
3.治癒期間
抜歯して2から3週の治癒期間で上皮化を完了。
4.移植床形成と親知らずの抜歯
親知らずの抜歯とともに受容側にスペースを外科的に作ります。
5.親知らずを移植
移植して間も無くは骨ができていませんので隣の歯と固定をし根管治療を行います。
6.被せ物の治療
根管治療を行なった後に通常の歯と同じ様に被せ物をして治療を終えました。レントゲンでも、周囲に骨が回復してきていることが確認できます。
何故、抜いた歯が
また機能するのか?
抜いた歯が別の所に植えてなぜ生着するのか疑問に思われる方も多いかと思います。もともと、歯と骨は直接結合しているわけではなく歯根膜という膜に覆われています。歯の表面に歯根膜があればその周りには支える骨ができ歯茎が表面を覆います。歯周病も歯茎の病気と思われている方が多いですが、この歯根膜が喪失することで骨が吸収し歯周ポケットができ歯茎が腫れるのです。話を移植に戻しますが、重要なのは根っこを覆う「歯根膜」なのです。ですので、深い位置に横向きに生えていたりして歯をバラバラにして抜歯しなければならない様な親知らずやまっすぐ生えていても既に重度のむし歯があったり歯周病の進行している様な親知らずはドナーとして使えません。その様な事も踏まえて適応である方には自家歯牙移植は最良の選択肢にもなりうると考えています。
自家歯牙移植のメリットとデメリット
メリット
天然の歯と同じ噛みごこち
今までの歯が無くなった時の治療法としては入れ歯やブリッジがありましたが、これらは噛み心地が悪いものでした。移植した歯は天然歯と全く同じ噛み心地です。
他の歯への負担がない
入れ歯やブリッジは隣の歯やブリッジした歯に負担をかけてしまいますが、移植した歯は健康な隣の歯などへの負担がありません。
保険適応
保険適応外のインプラントと違い、親知らずを用いた移植は保険適応で行えます。
デメリット
適応症が限られる
親知らずがあればいいというわけではなく、健全な状態で抜歯できる位置にあり、なおかつ移植の成功の鍵は根っこを覆う歯根膜です。この部分が歯周病などによりダメージを受けていないことが前提です。
治療期間がかかる
繊細な治療でありますので術者の技術も必要ですが治療期間もかかります。
よくあるご質問
移植にはどのくらいの期間がかかりますか?
移植はインプラントと同じ様に骨と結合するまで治癒期間があります。その間に根管治療(根っこの治療)を行いますが半年から1年ほどはかかります。
移植の手術は痛くないですか?
麻酔をかけて行いますので、処置中は痛みはありません。抜歯と同程度の腫れや違和感は数日あります。
移植した歯はどのくらい持ちますか?
移植した歯がきちんと生着してくれれば他の天然歯と同様にむし歯や歯周病にならなければ長く機能します。ただし、移植して数年後に骨性癒着(骨と同化してしまう)や感染によって脱落するという事も稀に起こりますので移植して終わりというわけではなく定期的に経過観察を含めたメンテナンスは必要です。